「飯沼さんへの手紙」
作・演出:松橋 勇蔵
90才の飯沼さんは、「死ぬってなあに」と問うた。
すぐに答えられなかった。
3年間かけて、この作品を作って、飯沼さんに見てもらった。
見たあと飯沼さんは、何も言わず、ただ微笑んだ。
何かを実感した、充実した笑顔であった。
その時、2人の世界に通い合う、死の世界があった。
−死ぬってなあに?−
飯沼さんに初めて会ったのは1998年、私のひとり芝居「人生一発勝負」の上演後。
90才の飯沼さんは笑いながら、「もう死んでもいいと思っていたが、もう一年生きているような気がする」と言った。
その時、ふと芝居の力という考えが浮かんだ。
翌年、老人ホームに移っていた飯沼さんを訪ねた。
私の顔を見つめながら、「実の息子に会うよりうれしい」と少し涙ぐまれた。
その時「死ぬってなあに」と問われた。
いや私がそう思い込んだのかもしれない。この不思議な出会い。印象深く投げられた短い会話。それはこの3年、私に与えたれた宿題だった。この作品は、その問いに対する答えである。
アテルイ飯沼さんへの手紙角海浜物語
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